Column #8: NIMBYについて
(2002年の記事)
NIMBYって言葉を知っていますか? Not-In-My-Backyardというフレーズの略語で、住民にとって迷惑な公共施設を自宅のそばに立地しないでほしいことを理由に反対運動が起きる現象を指しています。ただ、これだけではまだこの言葉のフレーバーが伝わらないかもしれません。アメリカの郊外にあるほとんどの一戸建て住宅にはbackyardという裏庭があります。日本と違って、こちらの一戸建ては道路に面した側には広い庭はありません。駐車場とちょっとした芝生が生えているくらいのものです。道路との境目に高い塀や生け垣を建てないので、リラックスできる庭としての機能は道路側には求めることができません。むしろ、庭は建物の裏にあり、そこでバーベキューをしたり、子どもが遊んだりできるようになっています。
さてNIMBYですが、そのまま訳せば「裏庭以外に」とか「裏庭じゃなくて」といった日本語になるでしょう。この「裏庭」ってものが、アメリカ人にとってはいかに重要なものか(日本人が想像する裏庭とはぜんぜん違うこと)を理解してもらったうえで、NIMBYという言葉をもう一度かみしめてみてください。日本語に訳すなら「自宅の前にはやめて」とか「じぶんちのそばにはやめて」といった言葉のほうがよいかもしれませんね。
このNIMBYについて、どう考えるべきでしょうか?まず何よりも、なぜNIMBY問題が起きるのかを考えてみる必要があります。そこに「公の利益のための私の資産(property)の剥奪」があれば明らかに計画の問題です。次に「私の資産」に関する認識について考える必要があります。もしそこに認識のズレがあるのであれば、何よりもその認識の擦りあわせが必要です。私の資産とその権利に関する認識のズレといっても、決して明文化された法律のみを「是」とすることはあまりよくありません。いわゆるメディアの論調も「是」かもしれません。最終的には認識の是非は司法の判断することですが、話し合いによって認識を擦りあわせることはいくらでも可能だと思います。NIMBYだからすぐ訴訟して土地収用して、というのはどちらかというとアメリカ的な考え方です。日本にはまず話し合いをしようとする素晴らしい文化があるのですから、問題を構造的にとらえて、私権に関してどのような認識があるのかをまず話し合ってみる必要があるでしょう。
また、「環境面での不公正が起きていないか」も検討課題です。行政区域全体を見渡して、一部の地域に負担が偏っていて、そこに人種、所得等の特殊性があればNIMBYはきわめて正当な現象と言えるでしょう。アメリカの場合特に人種差別の観点からこのような環境の不公正(Environmental Injustice)が現在特に問題視されています。
最後に、本当にNIMBYなのかどうかもじっくり考えるべき点です。実はもともとの計画案が行政区域全体から見てもよくない場合があるかもしれません。何よりも問題をNIMBYと簡単に決め付けないで、問題が何かを考えることが大事なのでしょう。
NIMBYに関連するキーワードの一覧表をつくりました。ご参考まで。
NIMBY | Not In My BackYard | 上述のとおり |
NOOS | Not On Our Street | こちらは家の表側にあたる「ストリート」に注目 |
LULU | Locally Unwanted Land Use | 土地利用(面的)の視点 |
NOPE | Not On Planet Earth | 地球上全てだめ、というハードコアEnvironmentalistな考え方 |
NIMTOO | Not In My Term Of Office | (市長等)在職中はだめ、という行政の日和見な姿勢 |
CAVE | Citizens Against Virtually Everything | 何でもかんでもダメという少しnutな感じ |
SLAPP | Strategic Lawsuits Against Public Participation | 市民参加を非合法化しようとする訴訟 |
BANANA | Build Absolutely Nothing Anywhere Near Anything | CAVEに近いですね |
Dear, M., Understanding and Overcoming the NIMBY Syndrome In Journal of the American Planning Association (APA), 58 (3), 1992, Chicago, ILを参考に加筆 |