Lecture #6: 期待値今回から応用編に入ります。 さて、今回は期待値の話です。 いきなりですが、今年のプロ野球は巨人が優勝するのでしょうか? それとも中日か横浜が土壇場で追いつくのでしょうか? ここで野球好きの2人(Aさん、Bさん)がいたとしましょう。 Aさんは巨人ファンで、巨人が100%優勝すると確信しています。Bさんは横浜ファンで、横浜が優勝する確率はまだ50%ほど残っていると信じています。 ここで賭けをすることになりました。 Aさんは「巨人が優勝する」に20,000円を賭けることにしました。 Bさんは「横浜が優勝する」に少し不安なので10,000円賭けることにしました。 さて、AさんBさん、それぞれいくら手に入れることができると期待しているのでしょうか? (これが期待値です) Aさんは絶対巨人が優勝すると思っているわけですから、元手を入れて 20,000+10,000=30,000円 手に入ると思っているわけです。よってAさんの期待値は30,000円です。 Bさんは、50%の確率で横浜が優勝する(50%の確率で自分の読みがはずれる)と思っているわけですから、30,000円に確率の50%をかけた15,000円が期待値です。 どちらの期待値も、掛け金より高いので、この賭けは成立するでしょう。 さて、2人の期待値を足すといくらになるでしょうか? 30,000 + 15,000 = 45,000円 ですよね。 でも賭けをするときに、2人が払う額は合計で30,000円ですよね。 では差額の15,000円はどこから生まれるのでしょうか? それは、2人がセリーグの優勝チームについて異なる予想をしていることが原因です。 この賭けをしたことで、15,000円が降って湧いてくるわけではありませんが、優勝チームが決まるまでの間は、見かけ上、この2人の間には15,000円という付加価値が賭けによって発生しているのです。 さて、これがどう交渉と関係するのでしょうか。 実は、この「将来への期待の違い」により成立している交渉が世の中にはたくさんあるんです。 賭けのようにわかりやすい形ではあらわれませんが、土地や株券の取引も、売り手と買い手の期待値の違いによって成立しているのです。 Aさんは土地を持っていますが、Aさんはこの土地は今後値上がりしないと思っています。むしろ株に投資すれば1年後には10%の利益が上がると信じています。 Bさんは現金を持っていますが、Aさんの土地をいま買えば1年後には20%ほど価格が上昇すると信じています。 いま、AさんとBさんが土地を1億円で売買したとしましょう。Aさんは株に投資して1年後には1億円の10%、1,000万円がもうかるだろうと思っています。Bさんは1年後にはこの土地を1億2,000万円で売れるだろうと思っています。 ですから、この取引で3,000万円の付加価値が生じているわけです。将来、土地や株の値段がどうなるかは誰も知りません。でも、「期待」がインセンティブとなってこの交渉は成立しているわけです。 ですから、期待値を高めれば高めるほど交渉は成立しやすくなります。 しかし、あくまで期待は期待。情報によっていくらでも操作することができます。詐欺師がだます相手の期待を高めるための努力を惜しまないのはまさにこれが理由です。たとえば結婚詐欺師は、相手に結婚後の生活がいかにすばらしいかを信じさせてから、お金を騙し取ってしまうわけです。 ですから、「期待の違い」というのは交渉を妥結させるためのひとつのポイントではありますが、考えよってはいくらでも悪用できるわけで、みなさんも気をつけてこのテクニックを使って下さい。 (交渉のポイント)
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