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Column #9: 最近の北朝鮮の核問題

(2002年の記事)

このところ北朝鮮の核問題がアメリカでもトップニュースで登場するようになりました。ちなみに北朝鮮による日本人拉致問題はまったくニュースになりません。やはりアメリカの国益の視点としては、極東地域の政治的安定が何より重要であり、日本人の拉致は比較的重要性が低い課題なのでしょう。

事の善悪はともかく、最近の北朝鮮の交渉姿勢を見ていると明らかに一つの戦略を使っています。それは交渉学で言う連携構築、コアリション・ビルディング -- coalition building -- の戦略です。ちょっと気になったので年表を作ってみました。私は国際関係論についてはズブの素人なので重要な事件が抜けていると思いますがそこらへんはあくまで雑文と思ってご勘弁を。

1990年代前半、北朝鮮は核を切り札にした国際交渉で核開発、エネルギー支援、その後の食糧援助など好条件を得ています。どうも気になるのがこの問題が起きた1993年は民主党政権への転換期で、さらに1991年の湾岸戦争に対する反省が表出した時期だったという点で、北朝鮮としては脅しをかけるに好機であったわけです。国内政治の関係から米国が直接攻撃を仕掛けることはまず考えられないので、北朝鮮は核をちらつつも安心して交渉を行えたわけです。しかもこの問題は新米のクリントン自身では対処できないので、国際交渉の専門家で民主党における大先輩であるカーターに対応を任せることとなったと言えるでしょう。もしクリントン自身が対処しようとしていたら違う結果になっていたかもしれません。

さて最近の事件のほうですが、やはり北朝鮮の核に関する交渉はあくまでアメリカの方向を向いています。私はこちら(米国)で日本のニュースも見ていますが、日本では北朝鮮の核に関する報道が米国よりも少ないように見受けられます。米国にとっての北朝鮮の核の脅威は、ノホホンとしているのか諦めているのかあまり焦りの見られない日本に比べてより重要な課題なのです。

しかし今回の交渉相手は共和党ですし、9.11以降なかば攻撃的ともいえる対外政策を取ってきた相手、そしていまでもテロ組織と戦争状態にある国家なので前回のようにナメてかかるわけにはいかないのでしょう。

そこで、韓国、日本を「味方」につけてしまうことで交渉のテーブルにつかせようという戦略を北朝鮮がとったことが、いまとなっては見えてきます。まず韓国ですが、2000年からの太陽政策で南北の連携は強くなっていて、さらに2002年末の大統領選で右派が敗北したことから、さらに北との「連携」が強まったわけです。対日本はこれまで表立った動きがなかったのですが、2002年に入っての急な首脳会談と拉致被害者の帰還は明らかに日本との連携を構築したいという意志のあらわれです。そして拉致被害者の家族を北朝鮮にとどめておくことで、北朝鮮への武力行使に対する反発を日本国内で生み出そうとしているといえるでしょう。拉致被害者の解放もこの対米戦略の流れ、連携構築の一環と考えれば何のことはない単なる外交戦術の一つであるように思えます。日本国内では対北朝鮮感情が悪化しているようですが、北朝鮮への武力行使については決して賛成意見は多くないでしょう。今回の5人も交渉で帰ってきたわけですし、許せないけど武力でなく交渉を継続すべき、という流れができてしまっているわけです。

こうして韓国、日本が米国に対して武力でなく交渉による解決を行うよう働きかけるようにすることで、前回と同じく核を切り札とした交渉を米国と進めて何かを得ようという戦略が北朝鮮にあるのではないでしょうか。北朝鮮の上手なところは、前回と全く同じ戦略をとらずに、相手が共和党政権であることを念頭におき、まず周囲を固める連携体制をつくってから、脅しをかけるという点です。

こういう戦略を連携構築というのですが、これは別に国際交渉でなくとも、普通の多者間交渉でもよくあることです。環境問題に関する交渉でさえこの連携構築が鍵となることがあります。特に連携構築で重要なのは、シークエンシング(Sequencing)といって、交渉の順序、タイミングをどう設定するかという点です。今回の問題が2002年末に起きた(というか意図的に起こした)のも、日本人拉致問題、韓国大統領選、米国のイラク攻撃体制強化といった一連の事件を見据えての戦略と思われます。もし日本人拉致問題が明確になる前に米国に脅しをかけていたとしたら、米国が一気に攻撃をしてしまっていたかもしれません。そういう意味ではイラクは下手で、様子を見ずにすぐに脅しをかけるので湾岸戦争で痛い目にあったわけです。

今回ちょっと怖いのが、交渉相手がW・ブッシュという点です。クリントンの時は自分じゃできないから素直にカーターに任せたわけですが、W・ブッシュは何でも自分でやらないと気がすまないと言われており、いろいろと問題視されているので、この交渉も自分で仕切ろうとすると危険です。特に彼は北朝鮮を嫌いと言ったとか言わないとかいう話もあり、誰か交渉の上手い人が噛まないとおかしなことになりかねません。本当はカーターに頼るのが事が一番うまくいくのでしょうが、政党が違うのでまず無理でしょう。ちょっと話がそれますが、最近、イラク攻撃に反対するポスターをこちらでよく見かけます。ブッシュの外交政策は少なくともボストンあたりではあまり好かれてないと言ってよいでしょう(南部は違うんでしょうが)。例のモメた2000年大統領選がここまで世界の平和を揺るがすことになるとは・・・。アル・ゴアだったらもっと平和だったろうなぁ・・・。

年表