合意形成研究
秋学期(火) 20:30~22:00 310H教室
政策形成過程では、多様な関係者との調整を欠かすことはできない。特に、公共政策は不特定多数の「市民」や「国民」などに影響を及ぼすため、多様な利害関心や価値観を政策にとりまとめる能力が行政機関に求められる。法や条例等に定められた手順に従うだけ、あるいは意見を聴くだけの「市民参加」の場を設けるだけでは、異なる意向を持った「市民」間で対立を煽ることも多い。だからこそ、対象とする政策課題の特性や政策の目的を踏まえ、ステークホルダーとの交渉または不特定多数との熟議などによる合意形成プロセスの設計と運用能力が、政策形成に携わる者に求められる。
他方、関係者合意を過度に重視することが逆に、社会の持続可能性を高めるために必要不可欠な制度改革を遅滞させる危険もある。地球温暖化、人口減少、年金問題など超長期かつ国家・地球規模の社会課題への持続可能な対応は、トランジション、トランスフォーメーション(移行、改革)と呼ばれる、社会制度・ルール・文化等を根本的に見直すことが必要なことが理論的に明らかになっている。そのようなトランジションの適切な加速を戦略的にマネジメントする能力もこれからの政策形成においてリーダーシップを発揮する者には期待される。
本科目では、政策創造に必要な合意形成プロセス(ステークホルダーとの利害調整や国民・市民の熟議)と、トランジション・マネジメントのプロセスについて、その設計や運用のための知識と能力を、講義と演習を通じて涵養する。特に今年度は、受講者各自が具体的な課題を設定し、その課題に対して適切なプロセスを自ら設計することで理解を深める予定である。
教科書
・松浦正浩著 「実践!交渉学:いかに合意形成を図るか」 ちくま新書, 2010.
・サスカインド、クルックシャンク著 「コンセンサス・ビルディング入門」 有斐閣, 2008.
スケジュール(予定)
9/22 |
概論と環境紛争の歴史 |
・公害,公共事業,エネルギー問題などに関する環境紛争(市民運動)の歴史を概観 |
課題認識の発表 |
・各受講者の課題認識を簡単に共有 |
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9/29 |
公共政策の合意形成の枠組み |
・市民等を交えた合意形成プロセスの類型(参加・協働・熟議)を理解するとともに,政策決定との接続,位置づけ,意義などを理解 |
10/6 |
協働による合意形成プロセスの設計 |
・交渉による利害調整を狙った協働による合意形成プロセス(協議会等)の全体像と理論的背景を理解 |
10/13 |
熟議の概念と実践 |
・交渉では解決しない価値観(規範)に係る意見対立を克服するための熟議の必要性と,ミニパブリクス等の具体的方法論を理解 |
10/20 |
トランジションの理論とトランジション・マネジメント |
・ステークホルダーの合意形成では逆に問題が悪化する課題の存在とトランジションの理論的背景について理解 |
10/27 |
事例紹介 |
・担当講師の関わった事例についていくつか紹介 |
11/10 |
中間発表 |
・受講生の設定したテーマに即して、合意形成やトランジションマネジメントのプロセス提案を中間発表のうえ、受講者間でディスカッション |
12/1 |
根拠に基づく政策(EBP) |
・「ポスト真実」が話題になる中,政策決定および合意形成過程における(科学的)根拠の取り扱いおよび共同事実確認手法について理解 |
12/8 |
対話技法・ファシリテーション |
・ステークホルダーが対話する場を効率的かつ公正に運用するための具体的な技法を理解,体得 |
12/15 |
プロセス設計実務家による講義 |
・公共政策に係る合意形成プロセスの設計に携わっている実務家より,最新事例や課題について講義 |
12/22 & 1/12 & 19 |
最終発表 |
・各受講生が設計案を教室で発表し,相互に批評し,合意形成プロセスの設計の実務的な課題を理解 |