合意形成研究
秋学期(火) 18:55~20:30
政策形成過程では、多様な関係者(ステークホルダー)との調整を欠かすことはできない。特に、公共政策は不特定多数の「市民」や「国民」などに影響を及ぼすため、多様な利害関心や価値観を政策にとりまとめる能力が行政機関に求められる。法や条例等に定められた手順に従うだけ、あるいは意見を聴くだけの「市民参加」の場を設けるだけでは、異なる意向を持った「市民」間で対立を煽ることも多い。だからこそ、対象とする政策課題の特性や政策の目的を踏まえ、ステークホルダーとの交渉または不特定多数との熟議などによる合意形成プロセスの設計と運用能力が、政策形成に携わる者に求められる。
他方、合意形成を過度に重視することが逆に、社会の持続可能性を高めるために必要不可欠な制度改革を遅滞させる危険もある。地球温暖化、人口減少など超長期かつ国家・地球規模の社会課題への持続可能な対応は、トランジション(トランスフォーメーション、移行、改革)と呼ばれる、社会制度・ルール・文化等を根本的に見直すことが必要なことが理論的に明らかになっている。そのようなトランジションの適切な加速を戦略的に促す「トランジション・マネジメント」のスキルもこれからの政策形成においてリーダーシップを発揮する者には期待される。
本科目では、政策創造に必要な合意形成プロセス(ステークホルダーとの協働型利害調整や国民・市民の熟議型対話)と、トランジション・マネジメントのプロセスについて、その設計や運用のための基礎的な知識と能力を涵養する。
授業内容(予定)
第1回 |
概論と環境紛争の歴史 |
・公害,公共事業,エネルギー問題などに関する環境紛争(市民運動)の歴史を概観 |
課題認識の発表 |
・各受講者の課題認識を簡単に共有 |
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第2階 |
公共政策の合意形成の枠組み |
・市民等を交えた合意形成プロセスの類型(参加・協働・熟議)を理解するとともに,政策決定との接続,位置づけ,意義などを理解 |
第3回 |
協働による合意形成プロセスの設計 |
・交渉による利害調整を狙った協働による合意形成プロセス(協議会等)の全体像と理論的背景を理解 |
第4回 |
ステークホルダー概念の理解 |
・ステークホルダー(利害関係者)とその利害関心を類型化するステークホルダー分析の必要性、概念、手法を理解 |
第5回 |
熟議の概念と実践 |
・交渉では解決しない価値観(規範)に係る意見対立を克服するための熟議の必要性と,ミニパブリクス等の具体的方法論を理解 |
第6回 |
トランジションの理論とトランジション・マネジメント |
・ステークホルダーの合意形成では逆に問題が悪化する課題の存在とトランジションの理論的背景について理解 |
第7回 |
中間テストと総括 |
・これまでの内容についての再確認(中間テスト) |
第8回 |
中間発表 |
・受講生の考える合意形成の課題についてスピードトークで共有し、受講者間で議論 |
第9回 |
民主的な意思決定 |
・近代の「民主的」な意思決定の本質について、古代の民主政や他の政体等との比較により理解する |
第10回 |
根拠に基づく政策(EBP) |
・「ポスト真実」が話題になる中,政策決定および合意形成過程における(科学的)根拠の取り扱いおよび共同事実確認手法について理解 |
第11回 |
対話技法・ファシリテーション |
・ステークホルダーが対話する場を効率的かつ公正に運用するための具体的な技法を理解,体得 |
第12回、第13回 |
プロセス設計実務家による講義 |
・公共政策に係る合意形成プロセスの設計に携わっている実務家より,最新事例や課題について講義 |
第14回 |
最終発表 |
・各受講生が設計案を教室で発表し,相互に批評し,合意形成プロセスの設計の実務的な課題を理解 |
第15回 |
まとめ |
・上記の講義で扱った内容についての総復習 |