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Lecture #3: 統合的交渉
- Integrative Bargaining -

配分的交渉は、英語の言い回しで言えば「パイ(pie)の奪い合い」になります。日本風にいえば、「陣取り合戦」とでも言えるでしょうか。

そのような交渉では、どうしても競争的なやりとりになってしまうのですが、少しヒネリを加えるだけで、交渉がガラっと変わります。

たとえば、配分的交渉の回で述べた、土地取引の事例について少しヒネリを加えてみましょう。

買い手の人は、以前、土壌汚染がひどい土地を購入してしまい、浄化のためにとんでもない費用を払わされたという経験があるとしましょう。また、売り手の人は、この土地が土壌汚染されていないことは確信を持っています。

ここで、「土壌汚染がされていないという保証」を交渉の取引材料に加えてみましょう。万が一土壌が汚染されていたら、売り手の人がすべて負担するという保証です。買い手の人は、リスクや過去の痛い経験などを考慮して、その保証に6,000万円の価値があると考えます。しかし、売り手の人は、ほぼ確実に汚染はないという自信があるので、万が一のリスクを見込んでも、保証を出すことは1,000万円の損失でしかないと考えています。

さて、「土壌汚染がされていないという保証」が交渉の合意条件に含まれれば、買い手にとっては6,000万円のプラス、売り手にとっては1,000万円のマイナスですので、5,000万円の新たな「利益」が発生したことになります。

保証が得られれば、買い手としては、6,000万円の得をしたことになるので、そのぶん、取引価格をたとえば3,000万円引き上げてあげたとしても、まだ3,000万円の得になります。売り手としては、保証をつけることで1,000万円の見込み損をするわけですが、価格を3,000万円引き上げてもらえば、相殺して2,000万円の利益が得られることになります。結果として、売り手も、買い手も「得」をしたことになります。

このような取引を「Win/Win」といいます。つまり、交渉当事者双方に利益がもたらされるような取引です。

どのような取引であれば、双方に利益がもたらされるかというと、その取引からそれぞれの交渉当事者が得るメリット・デメリットの規模に大きな差があるような取引です。いまの「保証」の譬えでいえば、保証をつけることは売り手にとって比較的小さなデメリットですが、買い手にとっては大きなメリットです。ですので、そのような条件を付加するかわりに、取引価格を売り手にとってよりよいものとすることで、お互いにハッピーになれるのです。

このような交渉を統合的交渉といいます。このような交渉を行うためには2つ以上の取引材料が必要で、複数の取引材料を「統合」するので、統合的交渉と呼ばれるのです。

統合的交渉のほうがよいに決まっているのですが、実際の交渉では、配分的交渉にとどまってしまっているものがたくさんあります。配分的交渉を統合的交渉へと転換させることが、交渉をよりよいものとする鍵になります。