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Lecture #11: コンセンサス・ビルディング (Consensus Building)

今回は交渉学から少しはなれて、私の専門領域である「コンセンサス・ビルディング」についてお話します。コンセンサス・ビルディングは交渉学を応用した、社会的合意形成、集団合意形成のひとつの手法、考え方です。

適用分野

基本的に、公共政策に関連する分野、公共性の高い分野で主に利用されます。具体的には、まちづくり、道路や空港の計画づくり、国全体の福祉政策づくりなどが適用対象になります。多くの人々が関係する計画づくり、ということです。米国では、工場の公害対策、近隣対策などについて民間企業が中心となって実施することも多いです。また、紛争処理の考え方が背後にあるため、比較的「もめる」案件に適用されることが多いと思いますが、「もめない」案件にも適用されます。

基本的考え方

コンセンサス・ビルディングは、単なる「手法」ではありません。フォーカスグループやオープンハウスなどと呼ばれるような手法とは異なり、一定の理念が存在します。その理念とは何か。まず一つ言えることは、利害関係者全員の同意を追求するということです。だからこそ「コンセンサス」なのです。よくある「広報」、「情報提供」、「情報収集」だけではコンセンサス・ビルディングになりません。利害関係者とは、計画によって何らかの影響を受ける人です。しかしコンセンサスを「追求」するのであって、絶対に全員の同意を得なければならないのか、というとそのようなことはありません。実際は、一部の人が最後まで同意しなくてもコンセンサス・ビルディングを終えることが多々あります。むしろ、最初から「全員が同意することなどありえないよ」という悲観的な態度を取るのではなく、まずは全員が同意できることは何だろうか、というポジティブな態度で考えよう、という姿勢が大事なのだと思います。

コンセンサス・ビルディングは利害関係者の代表者による直接対話で実施されます。つまり、行政が市民から意見を聞いて取りまとめるのではなく、さまざまな意見を持った市民、そして関係する行政機関が直接対話して、提言をつくりだすのです。ある意見を持った市民は、異なる意見を持った市民と直接話し合って、解決策を見つけなければなりません。これから日本でも緊縮財政が強いられることになりますが、限られた予算の中では、それぞれの市民の要望を100%叶えることは不可能です。しかし行政は神様ではないのですから、自ら「公正」な配分を行なうことはできません。もし「公正」な配分をしたと思っても、もっと自分の要望を叶えて欲しいという市民からの苦情は絶えることはないでしょう。そういう状況の下では、行政が市民の要望を一手に引き受けるのではなく、まず市民が自ら利害調整を行なった上で、行政に提言を出すというシステムのほうが行政と市民の間の摩擦を減らすという意味でも効率的です。

また、コンセンサス・ビルディングは行政手続ではありません。日本の審議会や委員会などと同じく、市民や行政機関が話し合った結果を、所轄の行政機関に提言として投げかけます。行政機関はそれをそのまま実現する義務はありません。あくまで「補完的」で自発的な取組みなのです。それでは実効性がない、提言が実現されないのではないか・・・と思うかもしれません。しかし、もし本当の利害関係者が集まって話し合ってつくりだした提言を、行政が無視するようなことがあれば、なぜ無視するのか、行政機関は何らかの形で説明をする責任が道義的にあるでしょうし、マスメディアは説明責任を追及すべきです。しかし、予算がない、法制度上許されないなど、行政機関としてはどうしようもない理由で実現できないのかもしれません。また、コンセンサス・ビルディングという名を使いつつも、実はほんの一部の利害関係者が集まっただけで、利害関係者を網羅的に集めて議論した結果ではないのかもしれません(これを防ぐため、以下に述べる第三者による紛争アセスメントが必要なのです)。ここは微妙なところですが、いずれにせよ、コンセンサス・ビルディングは行政に向けた提言を生成するための取組みなのです(工場の公害対策など民間企業に関する案件の場合は別ですが)。

手順

コンセンサス・ビルディングには一定の手順もあります。そういう意味では「手法」の側面も含まれます。

まずは、「招集」という段階を踏みます。この段階では、紛争アセスメント(ステークホルダー分析、関係者分析などとも呼ばれる)により、第三者的立場にある機関が、ある政策案件、課題についてその利害関係者を特定します。これはインタビュー調査によって実施されます。アンケートでは不十分です。このアセスメントにより、そもそもコンセンサス・ビルディングに見込みがあるのか、誰がコンセンサス・ビルディングの会議に参加すべきか、などが評価されます。実際、紛争アセスメントをやった結果、関係者を集めて対話させても無駄だろう(訴訟で争われるべきことがらだ)という判断が下されることもあります。

次に、責任分担などを明確にした上で、「審議」に入ります。利害関係者の代表が集まり、多くの場合で第三者がファシリテーター、メディエーターとして関与して、議論を進めます。ファシリテーター、メディエーターは当該分野の専門知識をある程度持った人(例えば公共事業であれば、土木や都市計画、行政運営の最低限の知識のある人)でなければなりません。単なる「プロセス運営のプロ」では空虚な仕切りになるのでダメです。また、議論の中で、科学的、工学的な問題(交通需要予測、大気質汚染の評価、景観の評価など)が絡む場合は、第三者的立場にいる技術者が評価を行なう共同事実確認(Joint Fact-Finding)という枠組みを導入することもあります。

そして、合意の取りまとめ、つまり提言の生成を行います。また、必要に応じて、監視(モニタリング)を実施することがあります。例えば、どこかの化学薬品工場について地元と工場の間で何らかの合意をしたのであれば、その監視を、第三者的立場にある人が引き続き実施することもあるでしょう。

関連情報

わが国でもコンセンサス・ビルディングを実施しようという機運が高まっていますし、実際いくつかの取組みが全国で始まっています。しかし、実際に現場の取組みに関わってみると、教科書どおりにはいかない苦労が多々あります。国の機関や自治体で、詳しい情報が欲しい、実際に使ってみたいという方はできる範囲でお手伝いしますので、マサチューセッツ工科大 松浦までご連絡ください。