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Column #1: 車の売買交渉学

(1997年ごろの記事)

1.まえがき

日本であろうが、アメリカであろうが、車の値段というのは交渉次第で決まります (サターンという、GM系列の車はポリシー上値引きません)。アメリカでは、自動車ディーラーとはそもそも堅気の職業ではないと思われており、私の周りでもディーラーとのいざこざをしばしば聞きます。

私は、まだ私が中学生だったころから我が家の車の面倒を見ていただいたディーラーの方がいたので、いつも値段の割には非常にいい車を買うことができました。やはり、ディーラーとの長いつきあいが、消費者にもディーラーにも、お互い最も望ましい結果へと導きます。 「信頼」とか「長期的関係」というのは、交渉学において、いわば「かけがえのない資産」と考えられています。もし現在、本当によくしてもらっているディーラーの方をご存知なら、ヘンに投機的にならずに、いままでどうりいい関係を保つのが得策です。

しかし、そういったつきあいがない場合、どうすればいいでしょうか?

我々がよくとる手段としては、

1) 異なるディーラー間で競争させる。
2) あまり興味が無いふりをする。
3) ある価格以上なら買わないときっぱり断言する。

などがあります。これらの手段は非常に洗練されたもので、交渉学の観点からすると、それなりに機能するはずです。これらの戦略を生かすにはどうすればいいか、具体的に述べてみましょう。

2.利害(Interests)の特定

まず、あなたがなぜ、車が欲しいのか、明確にする必要があります。彼女とデートしたい、とか、家族でピクニックに行きたい、とかが考えられます。さらに、なぜ、デートしたいのか・・・と深く深く、考えてみてください。箇条書きにするとわかりやすいでしょう。

ある特定の車種がかっこいいから、というのは、なぜ車が欲しいのか、という理由にはなりません。それば、なぜ、ある特定の車種がほしいのか、という理由です。もし、ある特定の車種以外は考えられない、そしてその車種は他のディーラーでは手に入らない(例:国産車)というのであれば、高い金額を払わざるを得ません。そういった執着心、というのは個人的には好きですが、車を安く買おうという交渉としては大失敗です。ただ、他の車を買ったら余計に後悔するわけですから、その車種を高い値段でも買う、というのが正解です。

3.選択肢(Option)の特定

次にすることは、あなたの「車の欲しい理由」を満たす車種を見つけることです。自動車立国なんですから、日本ではいくらでも見つかるでしょう。 ここで、「この車がいい」と決めてはいけません。各メーカーからひとつふたつ、見つければいいでしょう。販売系列が違えば、異なる車種と考えましょう。ですが、あまりに選択肢が多すぎるとわけがわからなくなるので、ディーラーに行く直前に、数車種に絞り込めばいいでしょう。

4.情報収集

また、知り合いで同車種を買った人がいれば、いくらで買ったか聞いてみることです。当然、その値段より高い、ということはありえないわけですから。ディーラーがよく、「他の人に値段を言わないでください」と言うのは、この点を消費者に押さえられないようにするためです。ですが、あなたの知り合いとディーラーとの関係を傷付けないために、「OXさんには\\円で売ったでしょう」とは絶対に言ってはなりません。あくまで、「\\円で買ったという話を聞いたことあるなぁ」にとどめておきましょう。

この準備段階は、車が欲しくてたまらない人には、なんだか面倒に感じられるでしょうが、交渉学としては、交渉を始める前に、いかに用意周到に戦略を練っておくか、が最終的な満足度を左右することになっています。

5.価格競争

数車種決まれば、あとはディーラーに価格を問い合わせるわけですが、 ここで、やはり定石どうり、ディーラー間で価格競争をさせるのが得策です。当然、同じような車なら安い車の方がいいわけですか、別に価格だけが唯一の判断基準ではないので、最終的にはあなたの「感覚」で決断せざるを得ません。あまり焦ってはいけませんし、かといって長引かせるとお互いにとっていいことはないでしょう。 オプション装備をオマケでつける、というのがよくありますが、これはディーラーの典型的戦略です。「オマケ」という言葉ほど人を誘惑するものはありません。何かタダでつけてくれる、というのなら、もしその装備品を自分でつけたらいくらかかるか、を調べて、そのぶんの「値引き」だと考えましょう。決して「オマケ」という見方をしてはいけません。必要のない装備品は、「値引き」でもなんでもなく、グリコのオマケくらいのもんだと考えましょう。

以降は、ほおっておけば、どんどん値段が下がっていくでしょう。「もういいや」というのを決断するのはあなたです。最終的には根気です。交渉学でも、どこまで粘るか、というのはその人の努力次第と言われています。ただ、上記の方法で攻めて行けば、詐欺とかでない限り、決して後悔するということはないはずです。買った次の日に、突然定価が下がった、というのはあきらめざるを得ませんが・・・。

6.あとがき

こう書いてきましたが、 なによりも大事なのは、相互の信頼です。昔っから地元で細々と営んでいる自動車工場などは、なかなか値引かないでしょうし、あまりしつこくすると怒っちゃいそうですよね。でも、仲良くなれれば、ちゃんと面倒を見てくれて、修理代とかを含めたら安くつく、というのはありそうなことです。「交渉戦略」という言葉に騙されて、戦争ごっこの気分になってはいけません。家族と何か話し合いをする、くらいのゆったりした気分で冷静に分析することが交渉での勝利を生むわけです。