2024年3月29日
欧米でのPHEVブームとその批判についての考察
BEVの普及停滞が「想定外」で、どのメーカーも当初の意欲的なBEV転換戦略を取り下げている、といった報道が今年に入って増えてきました。で、市場はどうなったかというと、PHEVの売れ行きがよいとのこと。
PHEVというのは説明が実は難しいのですが、昔のPHEV(たとえば前期型プリウスのPHEV)は、ICE車ベースのハイブリッド車のバッテリーにコンセントをつけて、直接充電できるようにしたという感じで、バッテリーの容量が小さいので電気だけで走行できる距離は非常に限られていました。しかし最近のPHEV(たとえば新型のプリウスPHEVやCX-60)は、大型のバッテリーを搭載できる車両設計になっていて、80km程度は電気だけで走行できるようになっています。ですので、日常使いは実質BEVで、長距離の旅行のときだけエンジンで走ることになるので、CO2の排出は純ICE車に比べてずいぶん抑えられるだろう、という想定になっています。もちろん純BEVであれば長距離の旅行でもCO2排出ゼロの脱炭素になるのですが、やはり充電インフラへの不安がまだ残り、さらにガソリンスタンドがまだ津々浦々に存在している現状だと、長距離はガソリンに依存したくなる気持ちも強く、結果としてPHEVが売れることになるのかと。
実は自分も後者のPHEVに該当するホンダの珍車、クラリティPHEVに乗っております。クラリティPHEVは実はもうとっくに終売になっていて、6年くらい前に発売されたんですが、当時は時代を先取りしすぎたんでしょうね。新車販売価格が600万円超となり、結局、日本国内で200台くらいしか売れなかったという噂のあるシロモノです。結果として中古価格が暴落し、自分は2年ほど前に中古を半値で購入しました。中古だとCEV補助金が使えないので損した気がしますが、それ以上に価格が落ちる気がしますので、冷静に考えると無問題です。で、クラリティPHEVはそんな昔に設計されたPHEVですが、EV走行距離が100kmほどありまして、普段はほぼエンジンを掛けずに乗っております。
さてさて、前置が長くなりましたが、今週に入って、欧米のほうで「PHEVはやっぱしダメ!」という論調がでてきました。なぜかといえば、EUによる大規模な排出量実態調査の結果が公表されて、PHEVドライバーによるCO2排出が、想定よりもぜんぜん多いという事実が明らかになったため。
なぜ想定よりもCO2排出が多いのかといえば、身も蓋もない結論なのですが、ドライバーが充電をサボって電欠させてしまい、短距離でもガソリンで走行しているから、だそうです。
まぁ気持ちはわかるんですよね。自分もたまーに「しまった!充電忘れてた!」とセブンイレブンに最近よく貼ってあるポスターのお姉さんのように焦ることがあります。そうなるとガソリンで走っちゃいますよね。
あと、言い訳がましいことを言えば、日本の電源構成を考えると、短距離であったとしても80km/h以上の高速走行だと、たぶんICEで直接駆動した方がCO2排出量がトータルで少なくなる気がします(誰か計算して・・・)。BEVの弱みって高速走行で、(車種にもよるでしょうが)80km/hを超えたあたりからどんどん電費が悪くなるんですよね。クラリティPHEVは高速ではエンジンと車軸を直結させるので、高速走行時の燃費はかなりよいのです(※モーター駆動のみ、エンジンは発電のみのPHEVも多いのでこれが該当しない車種も多いです)。もちろん電源構成が脱炭素的には悪の根源なのですが。
ということで、PHEVの実効性を高めるためには、ドライバー・オーナーがきちんと毎日充電する、という行動変容が必要になってくるわけです。あと、集合住宅などの駐車場にも200Vの充電コンセントを設置することもダイジですね。急速充電ステーションに2~3日に1回行って充電しなきゃいけないというのは不便すぎます。基本的に駐車場に200Vのコンセントがあることが、PHEVによるCO2排出削減(※でも脱炭素にはならない)の前提なわけです。
そう考えると、今週になって出てきた「PHEVはダメ、BEVに!」という論調は、気持ちは理解できるのですが、ちょっと言い過ぎかな、と。むしろ上記のような環境が整備できるドライバー・オーナーをまずはPHEVに移行させて、EVモードで走らせる政策を導入すればよいのかなと思います。BEV原理主義でトランジションを図るのも一つの手段とは思いつつ、結局PHEVが売れてしまうのであれば、むしろPHEVをきちんとEVモードで走らせてもらう施策も一つの手段かなと思うわけです。とはいえ転換に一番効果的な政策は、ガソリン価格を暴騰させることなんでしょうがね。
こちらはベトナムで急増中のVinfastのBEV