ホーム » ブログ

アーカイブ

検索


フィード


管理

2024年9月16日

環境経済・政策学会で発表(学生さん)

さる9月14日(土)に、関西大学で開催の「環境経済・政策学会」の2024年大会に伺ってきました。

自分はいちお共著で、かなりガチで発表内容や原稿に手を加えたのですが、筆頭・発表はうちの研究室のナランさんで、母国のカンボジアで聞き取り調査した結果の発表。

何がおもしろいかって、多国籍企業が途上国の環境に「よい影響」を与えている事実の発見。多国籍企業ってたいがい、ボパールの大事故のイメージが強いせいか、途上国で「悪いこと」をしてるという見方をされがちなわけです。最近ではスウェットショップとか。

しかし今回の調査で、カンボジアでグリーン建築(環境にやさしいビル・工場など)を建てた事業者(※LEED認証)はすべて実質的に多国籍企業の現地法人で、グローバル本社の意向や海外のクライアント(ハイエンドブランド)の意向が理由で、追加費用がかかるにもかかわらず、カンボジアで太陽光発電を利用したり、汚水排出が少なかったり、断熱性能が高かったり、そういう建物を敢えて建築していたんですね。やはりカンボジアの地元の企業だと、そこまでやろうという資本力もないし、気力も出ないのでしょう。

現時点で6社しか存在しないのでその影響は限られますが、彼らがトランジション・マネジメントの理論における「フロントランナー」となって、グリーン建築を拡大波及するポテンシャルは高いと思います。

ナランさんは実はカンボジア政府の環境省の職員で、今月帰国するので、今回の知見をもとに、フロントランナーからの拡大波及に勤しんでもらえれば・・・と期待しています。

その後、EV普及について、経産省・環境省やメーカーが登壇するパネルディスカッションを拝聴したのですが・・・やっぱ経産省というか日本の産業政策はダメだわ・・・と確信を強めました。


2024年4月5日

【祝】「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」がトランジション・マネジメントを採用!

昨年夏、トランジションの必要性とその加速についてまとめた「トランジション」という書籍を出版させていただきましたが、当初、思ったほど反響がなく、ショボーン(´・ω・`)としておりましたが、最近になってジワジワとインパクトが出てきました。

で、政府(環境省、農林水産省、経済産業省、国土交通省の連名)が先週、3月29日に「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」なる文書を発表しました。

その末尾になんと、下記の1文が入りました!

トランジションマネジメントの考え方に則り、アーリーアダプター(初期少数採用者)をアーリーマジョリティ(初期多数採用者)へと拡大するための施策を展開しつつ、施策の進捗による効果を見極め、経済活動にもたらす影響も踏まえた上で、必要に応じて適切な規制を含め施策の深化を図る。(p. 24)

自分はそもそも、「ネイチャーポジティブ」についてほとんど知見がなく、審議会にも全く関わっていないのですが、公私含めて小職の複数の知り合いのみなさんが生物多様性研究の関係で本件に関わられているようで、その関係でつながりができたのかもしれません。この文書の最後のとりまとめの頃には、さすがに環境省のご担当者とコネクションができまして、文章についていろいろやりとりさせていただきました。今年1月には環境省主催のシンポジウムでもトランジションについてご紹介させていただきました。

そんなこともあって、ネイチャーポジティブについて少し勉強してみたのですが、まさにこれはトランジションが必要な施策なのですよ。要は、従来(産業革命以降?)の生産システムは生物多様性の減耗を暗黙の前提にしてしまっていたけれども、経済活動を停滞させることなく生物多様性の維持・改善(=ネイチャーポジティブ)を図るためには生産システムの抜本的な入れ替え、つまりトランジションが必要なのですね。

もちろん従来から生物多様性(というか自然)を守ろうということで、山村で活動家みたいなことをする人たちは日本にも世界中にも、たくさんいたとは思いますが、彼らが社会経済活動の「あたりまえ」にはなってないのが現実でしょう。ニッチにとどまってしまっていますし、社会経済活動の縮小を志向している人も多そうです。またいわゆる大企業も、欧州で気候変動と並んで生物多様性についての監査・情報公開を要求されるようになってきたことから、危機感を抱き始めているようで、トランジションへの圧力がかかりつつあるようですが、やはり現在の経済システム(レジーム)の下でこれまでの「あたりまえ」を変えることは容易ではないようです。フロントランナー的社会起業家などは出てきているようですが、やはり「経済合理性」の観点で市場の拡大へとつながりずらい、要はキャズム問題に直面している模様。

そんなこともあり、日本の気候変動対策は相変わらずGXということで、ラジカルなトランジションがあまり前に出てきませんが、ネイチャーポジティブについては「トランジション」の意識が広まりそうな予感がしています。残念ながら日本政府の気候変動対策は欧米諸国に比べて大幅に出遅れているように見えますが、生物多様性・ネイチャーポジティブの分野ではトランジションを一気に加速させて欧米を見下せるくらいの勢いがつくといいなぁ、と期待しています。


カテゴリ: Environmental policy,Transition — Masa @ 6:55 PM

 

2024年3月29日

欧米でのPHEVブームとその批判についての考察

BEVの普及停滞が「想定外」で、どのメーカーも当初の意欲的なBEV転換戦略を取り下げている、といった報道が今年に入って増えてきました。で、市場はどうなったかというと、PHEVの売れ行きがよいとのこと。
PHEVというのは説明が実は難しいのですが、昔のPHEV(たとえば前期型プリウスのPHEV)は、ICE車ベースのハイブリッド車のバッテリーにコンセントをつけて、直接充電できるようにしたという感じで、バッテリーの容量が小さいので電気だけで走行できる距離は非常に限られていました。しかし最近のPHEV(たとえば新型のプリウスPHEVCX-60)は、大型のバッテリーを搭載できる車両設計になっていて、80km程度は電気だけで走行できるようになっています。ですので、日常使いは実質BEVで、長距離の旅行のときだけエンジンで走ることになるので、CO2の排出は純ICE車に比べてずいぶん抑えられるだろう、という想定になっています。もちろん純BEVであれば長距離の旅行でもCO2排出ゼロの脱炭素になるのですが、やはり充電インフラへの不安がまだ残り、さらにガソリンスタンドがまだ津々浦々に存在している現状だと、長距離はガソリンに依存したくなる気持ちも強く、結果としてPHEVが売れることになるのかと。

実は自分も後者のPHEVに該当するホンダの珍車、クラリティPHEVに乗っております。クラリティPHEVは実はもうとっくに終売になっていて、6年くらい前に発売されたんですが、当時は時代を先取りしすぎたんでしょうね。新車販売価格が600万円超となり、結局、日本国内で200台くらいしか売れなかったという噂のあるシロモノです。結果として中古価格が暴落し、自分は2年ほど前に中古を半値で購入しました。中古だとCEV補助金が使えないので損した気がしますが、それ以上に価格が落ちる気がしますので、冷静に考えると無問題です。で、クラリティPHEVはそんな昔に設計されたPHEVですが、EV走行距離が100kmほどありまして、普段はほぼエンジンを掛けずに乗っております。
さてさて、前置が長くなりましたが、今週に入って、欧米のほうで「PHEVはやっぱしダメ!」という論調がでてきました。なぜかといえば、EUによる大規模な排出量実態調査の結果が公表されて、PHEVドライバーによるCO2排出が、想定よりもぜんぜん多いという事実が明らかになったため。

なぜ想定よりもCO2排出が多いのかといえば、身も蓋もない結論なのですが、ドライバーが充電をサボって電欠させてしまい、短距離でもガソリンで走行しているから、だそうです。
まぁ気持ちはわかるんですよね。自分もたまーに「しまった!充電忘れてた!」とセブンイレブンに最近よく貼ってあるポスターのお姉さんのように焦ることがあります。そうなるとガソリンで走っちゃいますよね。
あと、言い訳がましいことを言えば、日本の電源構成を考えると、短距離であったとしても80km/h以上の高速走行だと、たぶんICEで直接駆動した方がCO2排出量がトータルで少なくなる気がします(誰か計算して・・・)。BEVの弱みって高速走行で、(車種にもよるでしょうが)80km/hを超えたあたりからどんどん電費が悪くなるんですよね。クラリティPHEVは高速ではエンジンと車軸を直結させるので、高速走行時の燃費はかなりよいのです(※モーター駆動のみ、エンジンは発電のみのPHEVも多いのでこれが該当しない車種も多いです)。もちろん電源構成が脱炭素的には悪の根源なのですが。
ということで、PHEVの実効性を高めるためには、ドライバー・オーナーがきちんと毎日充電する、という行動変容が必要になってくるわけです。あと、集合住宅などの駐車場にも200Vの充電コンセントを設置することもダイジですね。急速充電ステーションに2~3日に1回行って充電しなきゃいけないというのは不便すぎます。基本的に駐車場に200Vのコンセントがあることが、PHEVによるCO2排出削減(※でも脱炭素にはならない)の前提なわけです。
そう考えると、今週になって出てきた「PHEVはダメ、BEVに!」という論調は、気持ちは理解できるのですが、ちょっと言い過ぎかな、と。むしろ上記のような環境が整備できるドライバー・オーナーをまずはPHEVに移行させて、EVモードで走らせる政策を導入すればよいのかなと思います。BEV原理主義でトランジションを図るのも一つの手段とは思いつつ、結局PHEVが売れてしまうのであれば、むしろPHEVをきちんとEVモードで走らせてもらう施策も一つの手段かなと思うわけです。とはいえ転換に一番効果的な政策は、ガソリン価格を暴騰させることなんでしょうがね。
こちらはベトナムで急増中のVinfastのBEV


カテゴリ: Automobile,Environmental policy — Masa @ 8:11 AM