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2013年7月4日

The More We Know (Klopter and Haas, 2012)読了

NBCとMITが協力して開発したweb教育コンテンツのiCueの『失敗』を記述したというので、新刊で自分の専門分野じゃないけど、読んでみた。

読み物としてはおもしろいです。

最初にダメ出しするとすれば、いくつかの章は不要というか、誰かのPh.D.論文そのまま使ってるんじゃないの・・・と言いたくなるような内容。また、MIT Pressからの出版前にあわてて理論的な解釈をつけたんじゃないの?という雰囲気が濃くて、付け焼き刃のようにロジャースのDiffusion of Innovationの枠組みを使っているのも、なんだかなぁ、という感じ。

で、おもしろいのは何かというと、このiCueなるシステムが失敗した理由のひとつが、私なりに解釈すれば、教育業界の規範や文脈とあってなかったということ。教育というのは規範が強固な業界なのでしょうね。未来を見据えた新たな教材を導入しようとしても、現状の規範と適合しなければ、すぐにrejectされてしまうみたいです。他の業界なら、技術導入を通じて規範が変容することもあるのでしょうが、教育業界は、この規範が非常に強固なのでしょう。強固な理由もわからなくはありません。

もうひとつの失敗要因として、ターゲットオーディエンスが不明瞭で、開発途上でブレたこともあげられています。最初は、Advance Placementを希望する高校生というニッチなセグメントを狙っていたのに、収益確保のために教員や組織としての高校を対象に含めようとして、八方美人なシステムになってしまい、逆に各セグメントにとってのウリを失い、魅力的でなくなったそうです。

前者の問題については、トランジション・マネジメントの思想が必要だったのでしょうね。そういえば、来週12日、トランジション・マネジメントのセミナーやります(笑)。で、後者については、自分のやってるいろんなプロジェクトのマネジメントでも問題になってて、結局、誰が狙いなのかをハッキリさせないといかんな、と自戒するところであります。

読み飛ばしたくなる章もいくつかありますが、イノベーション、特に教育業界のIT化に興味がある人は、読んで損はないでしょう。


カテゴリ: Public policy,Science/Technology Policy — Masa @ 10:11 PM