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2009年11月1日

科学技術とパターナリズム

気象庁とWNIの論争は見ていて興味深いのだが、産経のこの記事には驚いた。気象庁担当者が講習会の場で次のようなことをのたまわったらしい。

 ある気象予報士から「台風が温帯低気圧に変わるタイミングが遅いのではないか」と問われた気象庁側は、「防災上の観点から温帯低気圧を台風としているケースもある」と説明。
(中略)
 「部外の学識経験者から、『台風情報から温帯低気圧の情報に変わったために、防災対応に支障が出ることがある』との意見を頂いている」と強調した。

「科学技術に立脚し」だのと言いながら、温帯低気圧を台風だと発表して、世間の人々を惑わせているわけですな。そんな恣意的な判断が入っているようでは、気象庁のいうところの科学技術の信憑性までも疑いたくなるものです。また、上記引用後半のようなことをのたまう学識経験者なる人物はいったい誰なんだろうか?台風といわれるか温帯低気圧といわれるかによって人間の行動が変化することは明らかではあるが、かといって、温帯低気圧と言うと本当に防災対応に支障がでるのであれば、温帯低気圧のリスクに関する知識の底上げを積極的に図るべきという結論が唯一無二であって、科学技術に立脚しているはずの情報に勝手な匙加減を加えるというインチキを正当化することにはなりえないでしょう。最後は学識経験者に責任転嫁するあたりも、いまや珍しい古典的な役人ぶりですな。

今回の問題は、要は、科学技術の名を借りた言説統制に関する権力闘争でしかないような気がします。科学技術に基づく分析と、分析結果を用いた判断(この判断には政治的要素が含まれる)という2つのプロセスを明確に分離しないと、結局は科学技術という名の下に政治的権力が発生してしまうのでしょう。


カテゴリ: Environmental policy,Science/Technology Policy — Masa @ 9:26 PM

 

2009年10月28日

電源三法よりもサステナブルな見返りの時代か

東芝が電気自動車に向け2次電池の量産工場を新設

このニュースはいい知らせだと思いました。以前から東芝が柏崎に工場をつくるという話はあったと記憶していますが、これはその流れなのでしょう。

柏崎刈羽発電所と直接の関係があるわけではないでしょうが、なぜあえて柏崎に東芝が?と考えると、やはり発電所の存在とまったく無関係だとは思えません。しかも電気自動車向け電池ですから、原子力発電でつくった電気を溜め込むための電池を製造することになるわけです。これだけ不景気なわけですし、大企業の企業立地は地方経済にとって重要な活性化材料。少なくとも柏崎市内では東芝は大歓迎されるでしょう。原子力発電に絶対反対の立場から見ると、原子力発電依存の経済構造(いわば「鉄の檻」)を一層強固にするものではないかと思われるでしょうが、柏崎の地域経済が心配な私としては、三法交付金などという不安定なシステムよりも、企業立地による雇用確保というサステナブルなシステムのほうがまだましではないか、と感じた次第です。もちろん、東芝一社依存になるとバーゲニングパワーを失い危険なので、柏崎市は日立なり三菱系なり、他社の誘致も推進したほうがよいでしょうが。


カテゴリ: Environmental policy,Public policy,Science/Technology Policy — Masa @ 9:10 PM

 

2009年10月19日

科学技術と情報のガバナンス

なんてタイトルだと、大学院での講義のように聞こえるでしょうが、もっと身近な話題。

台風上陸地「愛知だ」「いや三重」 官民バトル大荒れ

気象庁が台風の通過経路についてウェザーニュースに噛みついてるらしい。確かに防災情報は国民の安全に関わる重要な情報だろうが、台風が三重に上陸だろうが、愛知に上陸だろうが、大した違いじゃないんじゃないか。気象庁の公式ルートだって、志摩半島かすってるじゃん。上陸しようがしまいが、この地域は危なかったんでしょう。結局、上陸したかしないかなんて、どっちでもいいことじゃないのか?ほんとうに国民の安全を心配しているのなら、こんな重箱の隅をつっつくようなことでとやかく言っている暇などないはずだが。

気象庁としても、自分の縄張りがどんどん浸食されていっているようで、そうとう焦っているのでしょう。彼らがイライラすればするほど、自分の無力さに対する焦燥感を露呈しているようにしか見えない。

しかもウェザーニュースは、サポーターという、一般市民からの情報提供をもとにしているという。いわば、ツイッターの天気予報版ってとこでしょう。もちろん、一般市民から寄せられた情報がマスヒステリーに基づくものだと怖いけど、まぁ、インタラクションをうまく設計すば、まぁまぁ信頼できる情報は得られるはず。

これまで、台風の進路というきわめて「科学性」の高い情報は政府だけが取得でき、そしてその情報特権こそが政府(気象庁)を権力者たらしめていたのだろう。そして、その特権を考慮した法規制が構築されてきた。しかし、いまや、民間でも工夫次第で科学性の高い情報を取得できる時代である。科学技術の専有こそが政府の情報特権の基盤であったはずだが、その基盤が消失してしまった今、政府に残された権力の拠り所は、旧態依然な法規制という空虚な枠組みでしかなく、それを使ってカラ威張りするしかないのだろう。こういう空洞化は、政府のあちこちで起きているような気がする。


カテゴリ: Environmental policy,Science/Technology Policy — Masa @ 10:31 PM