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2009年11月1日

科学技術とパターナリズム

気象庁とWNIの論争は見ていて興味深いのだが、産経のこの記事には驚いた。気象庁担当者が講習会の場で次のようなことをのたまわったらしい。

 ある気象予報士から「台風が温帯低気圧に変わるタイミングが遅いのではないか」と問われた気象庁側は、「防災上の観点から温帯低気圧を台風としているケースもある」と説明。
(中略)
 「部外の学識経験者から、『台風情報から温帯低気圧の情報に変わったために、防災対応に支障が出ることがある』との意見を頂いている」と強調した。

「科学技術に立脚し」だのと言いながら、温帯低気圧を台風だと発表して、世間の人々を惑わせているわけですな。そんな恣意的な判断が入っているようでは、気象庁のいうところの科学技術の信憑性までも疑いたくなるものです。また、上記引用後半のようなことをのたまう学識経験者なる人物はいったい誰なんだろうか?台風といわれるか温帯低気圧といわれるかによって人間の行動が変化することは明らかではあるが、かといって、温帯低気圧と言うと本当に防災対応に支障がでるのであれば、温帯低気圧のリスクに関する知識の底上げを積極的に図るべきという結論が唯一無二であって、科学技術に立脚しているはずの情報に勝手な匙加減を加えるというインチキを正当化することにはなりえないでしょう。最後は学識経験者に責任転嫁するあたりも、いまや珍しい古典的な役人ぶりですな。

今回の問題は、要は、科学技術の名を借りた言説統制に関する権力闘争でしかないような気がします。科学技術に基づく分析と、分析結果を用いた判断(この判断には政治的要素が含まれる)という2つのプロセスを明確に分離しないと、結局は科学技術という名の下に政治的権力が発生してしまうのでしょう。


カテゴリ: Environmental policy,Science/Technology Policy — Masa @ 9:26 PM