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2020年11月2日

都構想住民投票は革命的転換の失敗例なのかもしれない

大阪都構想が住民投票で僅差で否決とのこと。

「大阪都構想」再び否決 松井大阪市長 任期全うし政界引退へ
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201101/k10012691571000.html

正直、都構想とは何なのか、そしてその費用対効果の分析などについて、事細かに知っているわけではないので、それがいいことなのか悪いことなのかは判断がつきません。ただ、二重行政とやらで、府と市が同じような業務をしてるので効率化の余地があるとか、そこらへんの理由から誰も使わないハコモノ温存してるとかマトモに働かないのに給与だけ貰ってる公務員がいるらしいとか、そういう問題は十分にあり得る話なので、それらを効率化するという政策提案自体の本旨は、まぁ多くの人が納得しそうな話でもあります。

他方、そのために市を廃止して特別区に改編するほどの制度改革まで行う必要があるのかどうかまではわからないです。まぁ大上段からの制度改革で一気に仕組みを変えて、諸々の「課題」を一気に解決してしまおう、という考え方は理屈としては理解できます。他方、上からの改革を行おうとすると、ありとあらゆる「課題」を十把一絡げにして、せーのっドン!で一気に変えようとすることになるので、「課題」のなかみを細かくていくと、課題設定自体にいくらでも「間違い」を見つけられるし、総論では賛成しても一部の各論で納得できない人がたくさんでてきて、結局、反対派が多数になってしまうのでしょう。

まぁだからこそ、こういう上からの制度改革は従来、「革命」といって暴力的手段あるいは非暴力的直接行動などを通じて、有無を言わさずに行われてきたのではないでしょうか。住民投票で上からの制度改革を目指そうとしても、それは「民主的」かもしれませんが、たぶん正攻法過ぎて玉砕必至なのかもしれません。

そういう意味で言うと、むしろもう少し地味に、トランジション・マネジメント的な取り組みに勤しんだほうがよかったんじゃないかと思います。先行事例をもう少し蓄積して実態を変えて、市民の「いいね」感をもう少し獲得してから、形式的な制度改革に進んだほうがよかったんじゃないかと思います。先行事例が拡大波及して、市民のあたりまえが変化していれば、「もう特別区にしてもいいんじゃないの?」って雰囲気になっていたのかもしれません。もちろん先行事例はいくつか進めていたとは思いますが、読みが甘かったんでしょうね。あるいは先行事例に対する「いいね」感が、為政者が思ってたほどには市民に広まってなかったのかもしれません。政治家のライフサイクルに比べて、トランジション(人々の考え方の変化)は時間が長いですからね。また、先行事例を試行錯誤で進めていれば、総スカンを受ける要素は試行段階で調整・削除できたでしょうし。

やはりトップダウンで革命的転換を試みる時代はそろそろ終わりを迎えるんじゃないかと思いますし、そういう選挙制度・メタガバナンスも、みんな辟易し始めているんじゃないかと思います。前政権から官邸・霞が関トップダウンで社会を変えようとする動きが目立つようになりましたが、例の学術会議の件にしても、ああいうやり方はよくないんじゃないかという気分に世間が傾きはじめたんじゃないかという気もします。


カテゴリ: Public policy,Transition — Masa @ 9:00 AM

 

2020年6月9日

ZOOMによる交渉効率化の可能性

いやほんと、今日はビックリしましたよ。

小職が東大の公共政策大学院で10年以上担当している科目「交渉と合意」。交渉分析の基礎と政策形成への応用をお話ししているのですが、今日は6者間での公共事業に関する合意形成模擬交渉。

「ハーボコ」という教材で、小職のMITの師匠が制作した教材なんですが、利害調整の論点が5つもあって、しかも各役割の利害が複雑に入り組んでいるのに、授業時間内の1時間半で合意形成を図る必要があり、さらにちょっとしたトリックも仕組まれていて・・・

Group-2-1

という、なかなかスリリングな演習です。この講義を受講した修了生のみなさんのなかには、この演習のことを忘れずに覚えている人も多いと思います。

で、何がビックリしたかといえば、今日はオンラインでやったわけです。

ZOOMでブレークアウトルーム機能をつかって原則6人1組(3グループ)に分かれて演習に参加してもらったんですね。

オンラインだからコミュニケーションがうまくとれないだろうなぁ、6者間なんて話し合いになるのかなぁ、と、やってみるまではドキドキでした。実際、ブレークアウトルーム機能が想定通り機能せず、講義開始直後にいったん全員にログオフしてもらって再度立ち上げなおすといったトラブルに見舞われたほど。

ですが、3グループのうち、2グループがなんと1時間程度で6者間合意に到達してしまったのです!

Group-3-1

通常であれば1時間半かかる演習が2/3の時間で合意に達してしまう、しかも例外的ではなく3事例のうち2事例、しかも覗き見していた感じ、特になにか「凄い」進行が行われていたような感じではないグループで、短時間で合意形成成功とは・・・。

これはZOOMというかテレビ会議の可能性を示唆しているような気がします。いちどnegotiation journalあたりで既往研究がないかどうかチェックしたいのですが、マルチステークホルダーの合意形成をオンライン会議にすると、時間の効率化が図られるのかも。とはいえ逆に、議論の質がどうだったかの検証も必要なんですがね。

コロナ禍は多者間交渉を大きく変えるトリガーなのかもしれない、と思うと鳥肌ザワザワした午後でした。


カテゴリ: Computers,Negotiation,Transition,University of Tokyo — Masa @ 11:14 PM

 

2017年11月29日

トランジションは均衡選択の問題か

先日、社会選択理論の本を読んでいたら、equilibrium selectionという言葉がでてきました。ふむふむ、確かに複数の均衡解が存在するとき、どれを選択するのかを考える必要がありますね。

でも現実の社会では、ある程度の均衡解がすでに実現しているわけです。ある一定の環境下でみんながそれなりに合理的に行動していて、行動がそんなに変化しないのであれば、それは均衡解が実現していると言ってもよいのでしょう。

自分は最近、トランジション・マネジメントというお題の下、どのように社会経済システムの構造改革を実現し、人々の行動を変えることができるのかを、実践的に調べていますが、これもまさにある意味、とある均衡解から別の均衡解へといかに移動するか、という問題ととらえることができそうです。

たとえば、化石燃料に依存する現在の社会ですが、これはこれで極めて合理的にできていて、システムの最適化がかなり図られているのではないでしょうか。たとえば、ガソリン価格が高くなればハイブリッドカーが売れるわけです。しかし、そもそも化石燃料に依存しない、いわゆる「脱炭素」社会へ移行しないと、気候変動や資源枯渇の問題にいつか直面するという危機感もあり、全く違う新たな均衡解へと移行する必要があるといわれています(その必要性がない、という反論もありそうですが)。

名称未設定-1

図を描いてみましたが、AとBという均衡解がわかってて、わたしたちの社会がAであるとき、Bの社会へと移行したほうがよいことは判ります。しかし、いきなり不連続で瞬間的にBへと移行できるのではなく、途中で「A地点からB地点まで」((c)ザ・ぼんち)の経過を辿っていく必要があるわけです。Bの方向へと移動しようか・・・と少しだけ移動してみても、いややっぱしAの均衡解のほうが(ちょっと移動した状態よりは)いいよね、ってことで、やっぱしAに元戻りしちゃうわけです。均衡解というのは起き上がり小法師のようなもので、自己安定化メカニズムがあるからこそ、均衡解なわけです。そうすると、いまの私たちの社会はいわば「蟻地獄」で、抜け出すことができないのかもしれません。

だからこそ革命論みたいなものが20世紀には流行して、不連続的で瞬間的に移行しなければ社会は変わらない、ということだったのかと思いますが、それは無理じゃない?というのが現在のモードかと思います。とはいえ、社会経済システムの変革が人類の持続可能性維持のために避けられないのであれば、いかに「A地点からB地点まで」の移行を実現するのか、それがトランジション・マネジメントの挑戦なんじゃないかと思います。


カテゴリ: Environmental policy,Public policy,Transition — Masa @ 8:32 AM