2013年7月14日
科研費研究と科学技術ガバナンス講座の一環で、オランダのエラスムス大学オランダ・トランジション研究所長のダーク・ローバックさんと研究員2名が来日され、研究会や公開セミナーなどを実施しました。
金曜日夜の公開セミナーでは、トランジション・マネジメントについてイントロダクションとなる講演をお願いしました。小職は逐次通訳役だったのですが、トランジション・マネジメントの概念を理解する上でとても有益な場となりました。ただ、いくつか疑問点も残り、土曜日午前のクローズドのゼミで、democracyという側面でどういう配慮や影響があるのか、詰めて議論することができました。
トランジション・マネジメントですが、まずは、意思決定支援ツールではない、という理解が重要だと思います。自分を含め、いろいろな人々が、市民参加や熟議のプロセスを実践していますが、それらの暗黙の了解として、意思決定に対して何らかの形で情報を提供することが目的にされてきたような気がします。対照的に、トランジション・マネジメントは、人々が議論する場をつくってイノベーションを惹起することに主眼にあって、政府等の意思決定に有益なアウトプット(政策提言など)を生成することに軸足を置いていないようです。むしろ、サステナビリティ(持続可能性)を目標とした社会運動のネットワーク(一種の認識共同体かもね)形成のトリガーとして、トランジション・アリーナという議論の場をつくる活動をしているみたいです。
具体的には欧州5都市でMUSICというプロジェクトをやっているそうで、地域のリーダーなどを集めて、2050年のビジョンを描いてみたり、そこからいろんなアクターが具体的なアクションを起こしてみたり、などの動きがあるようです。
2012年10月22日
さる10月21日に和歌山大学で開かれた土木学会の「第40回環境システム研究論文発表会」で発表してきました。発表内容は、2011年度の東京大学公共政策大学院「事例研究(政策プロセスマネジメント)」ゼミの成果で、「農業分野の気候変動適応策検討のためのステークホルダー分析の提案」について発表してきました。
埼玉県の児玉地域、川越地域の農業について調査したのですが、結論としては、気候変動適応よりも、後継者、農業経営がより喫緊の課題で、長期的な気候変動についてはサプライチェーン上のほとんどのステークホルダーが関心を持っていない、ということでした。提案としては、気候変動適応化研究を行うにしても社会実装を目論むのであれば、実装において協力が必要となるステークホルダーの利害関心把握が有用であること、環境省単独ではなく農水省、経産省、その他関係省庁を巻き込んだガバナンスの形成が必要であること、などになります。
で、質疑応答のなかで、ステークホルダー分析の客観性・有意性について問われました。というのも私以外の発表は因子分析など統計的手法を用いていて、私たちのステークホルダー分析で出てきた結論がバイアスがないことを同じように確認したいというのは、当然のことなんだと思います。
私の回答としては、1)調査主体が農業や気候変動いずれについても特に強い意見を持っているわけではなく、結論を誘導することに利害関心がないこと、2)芋づる式で対象者を探して飽和してるので、十分網羅したと考えられること、3)統計上の有意性はないかもしれないが、質的研究によって新たな論点が提起されることが、社会に便益をもたらすのであれば、それは研究として意義があるのでリジェクトすべきでなかろう、という3点かと思います。
quantitativeとqualitativeの問題は一種の科学パラダイムのようなものでしょうから、今後とも、いかにお互いを認めて、共生しながら相互に高めあうか、そこがキモなのではないかと思います。
広々とした和歌山大のキャンパス