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2011年9月16日

研究補助者の募集

合意形成論に基づく政策形成過程の研究枠組みの構築」研究事業では、今年10月~来年2月にかけて、事例研究を作成していただける学生研究補助者を募集します。具体的には、以下のテーマについて2名を募集します。

1)統計的手法による合意形成事例の分類
アンケートや既存の文献資料等により、都市・環境分野における合意形成事例を収集、整理したうえで、独自の視点により多変量解析などを行い、類型化を行う

2)質的研究手法による合意形成事例の記述と分析
聞き取り調査により、都市・環境分野における合意形成事例を1または2事例把握し、書き起こしやコーディングなど質的研究手法により、特徴の抽出や(2事例の場合は)比較事例分析を行う。

成果はA4で15~20ページ程度のレポート。月1回程度の打ち合わせで調査方針等の指導・修正依頼の予定。謝金および必要経費(計10万円程度/人)を支給の予定。本調査で得た情報を(調査対象者に対して迷惑にならない範囲で)講義レポート・ゼミ報告・学位論文作成等に活用していただいて構いません。

希望者は、10月1日までに、氏名、所属、希望テーマ(1か2か)、具体的な対象事例の提案(もしあれば)を matsuurapp.u-tokyo.ac.jp まで電子メールでご連絡ください。


カテゴリ: Consensus Building,Public policy,Urban planning — Masa @ 11:49 AM

 

2011年5月7日

「規模の経済」と「規模のリスク」

誰でも「規模の経済」の意味は知っているでしょう。生産規模を大きくすれば、1生産単位あたりの生産費用が縮減するという経済学の最も基本的な思想だと思います。産業革命以降、規模の経済の論理こそが、衣食住ありとあらゆる側面でグローバルな規格化(一律化)を推進し、現在となっては、世界中みんな似たような服を着て、似たようなメシを食って、そして似たような建物に住んでいるわけです。

規模の経済のみを前提とすれば、生産規模の拡大は絶え間なく続くでしょう。何でもかんでも、大量生産(マスプロダクション)が合理的選択となります。

電力供給についてもこれまで同じ論理で、システムが構築されてきたのではないでしょうか。少数の巨大原子力発電所により大量の電力を発生することで、品質やブランドによる差別化がほとんど起きない「電気」という商品を大量生産することは、規模の経済に適います。もちろん、原子力発電には放射性廃棄物の問題などの費用が伴いますが、放射性廃棄物も国内のどこか一箇所で集中的に大深度地下で管理することにより、(分散管理するのに比べて)規模の経済による恩恵を得られます。こうして、規模の経済の恩恵にあずかるべく、バックエンドまで含めた原子力発電という巨大システムが形成されてきたのでしょう。

この巨大システムへの信頼は、大津波という「想定外」の事態によって大きく損なわれました。

なぜ、規模の経済という合理的選択にもとづいて進められてきた電力システムの巨大化が頓挫したのでしょうか?やはり原子力にはスケールメリットがあって、今回のゴタゴタは一時的な政治的混乱に過ぎないのでしょうか?

私が考えるに、当たり前のことですが、規模の経済を追求すればシステムの巨大化につながり、結果としてアクター(ステークホルダー)の人数、組織数の巨大化へとつながります。このシステムが円滑に動いていれば、規模の経済という恩恵にあずかることができます。しかし、巨大システムには内在的リスクがあると言えないでしょうか。アクターの数が増えれば、コミュニケーションや指揮体系が複雑化するために情報の伝達や役割分担がシステムの想定どおり機能しなかったり、たった一人のアクターによるちょっとしたミスが連鎖的に巨大システムへと波及して甚大な被害をもたらしたり、さまざまなリスクが想定されます。また集合行為問題(Collective Action Problem)が発生し、モニタリングコストが莫大になるとともに、システム内のフリーライダー候補生も増えるでしょう。そして、生産拠点の数が限られるために1拠点での故障が大規模な被害をもたらす問題もあります。つまり、規模の経済が存在するとともに、規模のリスクも存在するのです(追記:要は規模の不経済なわけですがここではリスクに伴う費用として別立てで考えてみます)。

ここで、こんな図を考えて見ました。x軸に生産規模、y軸に1単位あたりの生産費用(単価)をとります。規模の経済を考えれば、生産規模を無限に拡大することで単価は縮減します。しかし同時に、規模のリスクだけを考えれば、生産規模が大きくなるにつれて、システム巨大化に伴う巨大システム障害の発生リスクが増加するために、右肩上がりの変数となるでしょう。ここで、規模の経済と規模のリスクを同時に考えると、どこかに費用最小化の「均衡解」があるはずです。

さて、原子力発電について考えてみましょう。これまで、私自身を含めて、原子力発電という規模のリスクをかなり低く見積もっていたのではないかと思います。

原子炉の運転に係る直接的リスクについては工学的手法で解決を図り、原子炉の改良が進められてきていますし、また、核燃料リサイクルまで含めても、すべて計画通りに動くのであれば、石炭などの化石燃料に比べればエネルギー源としてずっといいじゃないか、と思えます。実際にプロジェクトとして動かすときには、立地地域からの反対運動やそれに伴う許認可の遅れといった「投資リスク」が大きいわけですが、米国政府は気候変動対策として原子力発電を推進するために、この投資リスクを減らそうと、信用保証を出したり、許認可プロセスのストリームライン化を図ったりしてきました。ですので、投資リスクについても、政策的措置で対処しようがありました。

しかし、規模の経済に対抗する意味での「規模のリスク」について、原子力発電という巨大システムはどう、対応できるのでしょうか。

グローバル企業などのリスク管理については、これまでいろいろな手法が検討されてきて、実際にある程度機能しているのでしょう。こうして規模のリスクを縮減できれば、費用最小化の均衡解は右へ移動して、より大きな規模の組織がより大きな利益を出せるようになる(いわゆるグローバリゼーション)へとつながるのでしょう。

今回の原子力災害への対応として、巨大システムのリスク管理手法を導入することも一つの選択肢ではあるでしょう。たとえば、リダンダンシーを高めるためにコンピュータのサーバを分散配置するのと同じように、各都道府県に原子炉を1つ配置することにすれば、ある都道府県で何らかの災害等により原子炉を停止せざるを得ない状態に至ったとしても、電力供給が急減することはないでしょう。これは極端な喩ですが、原子力発電を維持するのであれば、システム全体を俯瞰した大胆なリスク管理対策が今後必要になるでしょう。東京電力管内の電力供給の1/3を福島県双葉郡と新潟県柏崎市・刈羽村という非常に限られた地理的空間に依存していることは、システムとしてのリスク管理が不十分じゃないかという気もします。ただし、リスク管理の対策を施すことで生産費用が増加するために、他の発電手段との比較優位を失う可能性があります。とはいえ、CO2排出削減も必要ないま、火力発電を増やすことも無条件で許容できるものではなく、どこでバランスをとるのかが大変悩ましい問題です。これは今後、冷静に検討が必要な分野だと思います。

もう一つの考え方は、電力の発電・送電・配電というシステム全体を見通して、規模のリスクの大きさについて再認識したうえで、エネルギー政策の方向転換を図ることもできるでしょう。スケールメリット追求の弊害は、今回の原子力災害だけでなく、北米でときどき起きる大規模停電にも見られます。発電手段それぞれの特性はとりあえずおいといて、電力供給の規模のリスクが実は大きいと考えれば、費用最小化の均衡解は左に移動する、つまり小規模で分散型の電力システムが最適解となります。いわゆるマイクログリッドや、発電の分散化を前提としたスマートグリッドなどが最適解ということなのでしょう。日本にとってこれらが本当に正しい選択かどうかについては、私自身判断がつきませんが、規模のリスクが大きいと考えるのであれば、これらは合理的選択であるとは言い切れます。

ということで、「規模のリスク」について考えることが、今後の原子力発電の行く末、電力に係るエネルギー政策の鍵になるのかな、と思った次第です。


カテゴリ: Environmental policy,Public policy,Science/Technology Policy — Masa @ 10:04 PM

 

2011年4月22日

東北地方太平洋沖地震マップ

気象庁などがすでに余震発生状況などのマップを公開しているのですが、マグニチュードが色の塗りわけだけで表現されていたり、円の大きさで表現する場合も地震本来のエネルギーの大きさではなく対数指標であるマグニチュードの値が使われていたりして、地震の規模のメリハリがイメージできず、結果として、かなり強い余震が頻繁に発生している(から怖い)という印象を受けます。

ということで、3月11日以降の地震について、気象庁公表のマグニチュードから逆算したそれぞれの地震のエネルギーを円の面積で表現したマップを作成してみました。元データはこちら(ただし本震については後日発表のM8.4に修正)。地震そのものについては素人なのでWikipediaなどで勉強しながら試行錯誤でつくってみたものですので、もし何か計算間違いしててもお許しを。

結果はこの通り(画像をクリックすると拡大表示します)。東北地方太平洋沖地震のマッピング

3月11日14:46のマグニチュード8.4(気象庁スケール)の本震のエネルギーがいかに大きなものであったかが判ります。ちなみにマグニチュードは対数スケールで、Wikipediaによればマグニチュードの値が1増えるとエネルギー量は約32倍になるとのこと。

実際に地図を作ってみて、たまに起きる強めの余震も、3月の本震に比べれば小規模のものであること、また数も限られていることがわかり安心しました。また、プレートの沈み込み帯以外の場所で起きている「直下型」地震についても、いまのところ、規模はかなり小さいように見受けられます。

もちろん、これから本震に近い規模の余震が発生しないという保証はどこにもありません。私自身、地震研究者でもなんでもないので、単なる興味本位の地図作成作業でしかないのですが、余震に対する印象が、見せ方によって大きく変わるものなんだなぁ、というのが一番の感想でした。

ちなみにkmlファイルを作りましたので、アップロードしておきます(ダウンロードはこちら)。Google Earthなどでご覧になれます。


カテゴリ: Public policy,Science/Technology Policy — Masa @ 12:33 AM